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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』11

last update Last Updated: 2025-01-21 15:19:27

   *

今日は、お祝いを持って自宅まで遊びに行く。夕食をご馳走してくれるらしい。最近免許を取った俺は車で向かっていた。

久実ちゃんは都内のマンションに住んでいた。

高級住宅街ではない普通の建物だった。

玄関の前に立ってチャイムを鳴らすと久実ちゃんが出てきた。

満面の笑みを向けている。ツインテールの髪の毛はポニーテールに変わっていて、元気そうだ。

「赤坂さん、ようこそ!」

「お邪魔します」

中に入ると母親がエプロン姿でキッチンから出てきてくれる。

「わざわざありがとうございます」

「いえ。お邪魔します」

父親が近づいてきた。

普通のサラリーマンという感じで、話し方も優しくていい人オーラが出ている。

久実ちゃんは、一人娘で大事に育ててもらっている印象を受けた。

母親は手料理を振る舞ってくれて、父親も何度も感謝の言葉を伝えてくれて温かい家庭だと思う。

いつか自分も結婚して久実ちゃんファミリーのような笑顔が耐えない家庭を作りたい。

久実ちゃんにプレゼントを手渡した。

「赤坂さん、ありがとうございます」

「中学に入るんだから、ちゃんと勉強するんだぞ。じゃないと、俺みたいになるぞ」

「はーい」

笑いが起きる。

俺と久実ちゃんは本当の兄と妹のようだった。

いい子だし、病と戦っているなんて思えない強さがあって、俺は見習おうと思っていた。

彼女のように物事をプラスに捉えることができれば、どんなこともいい方向に行くのではないかと思えた。

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